萩谷さん(仮名)の家の庭にあった梅の木に、ある年異変が起きた。
木の幹に、野球のボールくらいのこぶが10個ほどできたのだ。
少しずつ大きくなっていったのかもしれないが、家族の誰も大きくなっていった過程を見ておらず、ある日気がついたらその大きさのこぶができていた。
病気か、あるいは中に虫でもいるのかと、いろいろ調べてはみたが分からない。
梅の木というのは剪定に強く、桜切るバカ梅切らぬバカ、などという言葉もある程だ。
このままでは見た目も悪いし、まあ切り落としても大丈夫だろう、という話になり、とりあえず数個切ってみて様子を見ることにした。
そこでお父さんがのこぎりを持ち出してきてこぶを根本から切り落としたのだが……のこぎりを入れ始めるとすぐに、切り口から真っ赤などろりとした液体が溢れてきた。
樹液だとは思うのだが、梅の樹液というのはこんな色だったろうか? 匂いもなんとなくだが鉄臭いような気がする。
お父さんだけでなく、見ていた家族も気味が悪くなり、3つほどこぶを切り落とした所でやめてしまった。
それから三ヶ月としないうちに、梅の木はすっかり枯れてしまったそうだ。
さらに、その年の秋に来た台風による強風で根本から折れて、倒れた。
折れた断面を見ると、まるでシロアリにでもやられたかのようにボロボロだったという。