地下道

その日、高校生の小柴さんは学校の委員会の仕事で、いつもよりちょっとだけ帰りが遅くなっていた。

遅い時間、と言っても、夜の7時位だ。

夜の通学路、帰り道を歩く小柴さんは、いつも通る地下道に差し掛かった。

片側二車線の国道を横断できるようになっている地下道は、長さが50メートル程ある。

一応地上の国道にも横断歩道はあるのだが、待ち時間が長く、歩行者用の信号は青になっている時間が短いので、もっぱら小柴さんは地下道を通ることにしている。

今は夜だが、地下道内は当然蛍光灯がいくつも設置してあるので、外よりもずっと明るかった。

カツン、カツン、と小柴さんの靴音が響く。頭上の国道を通る車の音も、鈍く聞こえていた。彼女の他に通っている人はいない。

真っ直ぐに続く通路を渡り、やがて地上へと続く上り階段まで進んだ小柴さん。その足が、ふいに止まった。

……見上げる地下道の出口が、白く煙っている。

ゆらゆらと流れるそれは、霧に思えた。

しかし、この地下道に入るまで、霧なんて出ていただろうか。

じっと、出口を見つめる小柴さん。

もうひとつ、気がついた。

音がしない。

頭上の国道は深夜でもそれなりに交通量が多いのだ。なのに、その車の音が一切聞こえない。

しん、と静まり返った地下道。そんなのは、この場所では初めての経験だった。

なにか、進んではいけないような、そんな気がする。

小柴さんはごくりと唾を飲み込むと、前を向いたまま一歩後ろに下がりかけ……

いきなり、肩にかけたバッグの中から音が響いた。

ハッとして、すぐにバッグからそれを取り出す。小柴さんの携帯を。

ディスプレイには、メールの着信を告げるメッセージが表示されていた。母からだ。

内容は、何時頃帰ってくるの? というもの。

もうじき、とだけ返して、携帯をバッグに戻す。

そして顔を上げると……地下道の出口は、いつもの景色に戻っていた。霧なんて、どこにもない。

頭上からは、ひっきりなしに車が通っている音がする。

小さく息を吐くと、小柴さんは階段を登り始めた。いつものように。

……その日から、小柴さんは夜にはあまり地下道を通らず、多少待たされても地上の横断歩道を渡るようになった。

あと、母親にちょっとだけ感謝したそうだ。