散歩の人

朝、家を出て駅まで歩いていく途中、たまに白い犬を連れた上品そうな老婦人とすれ違う。

すれ違う際に人の良さそうな笑顔で会釈してくれるので、こちらもお辞儀をする。

お互いに、言葉は交わしたことがない。道路の反対側から、無言の挨拶をするだけだ。

犬の方は、こちらを見ない。こちらを向いた顔を見たことがない。そこそこ大きな犬で、詳しくはないが、おそらく雑種なのだと思う。

はじめてこの老婦人を見かけたのは、たぶん小学校の時だ。朝、通学の途中ですれ違い、やっぱり無言で頭を下げた。

その時から、この老婦人をずっと、朝、たまに見かける。

いつもと同じ上品そうな笑顔で、同じ白い犬を連れていて、服もほとんど変わっていないように思える。

かれこれ20年以上、ずっとだ。

服装も、顔も、白い犬も、歩き方も、表情も、お辞儀の角度すら、まるっきり同じに見えるのは、気のせいなのだろうか。

両親に、こんな人知らない? と聞いたことはある。

答えは、首を傾げられただけだった。

すれ違う時は、何故か自分と、この老婦人、そして白い犬しかいない。少なくとも、見える範囲の道には、その三者しかいない。そんな状況でしか、すれ違った事がない。誰かいると、現れないのだ。だから、毎日ではなく、たまに、なのである。

不思議に思い、失礼だとは思ったが、携帯で写真を撮ろうと考えたこともあった。

だが、そう思って携帯を手にして通ると、現れない。

現れないまま何日か過ぎて、そんな事も忘れ、携帯をカバンに入れたまま通ると、現れてすれ違う。

そうして、時ばかりが過ぎた。

老婦人も、白い犬も、変わっていないとしか思えない。

自分はいつまで、すれ違い続けるのだろうか。

声を掛ける勇気は、ない。