霧中

夜、自宅への帰り道でのこと。

暗い夜だった。

天気は朝から悪く、いつ雨が降ってもおかしくないと思えるほど、鼠色の厚い雲に覆われた空空模様。

そのせいか、夜になっても星はもちろん、月の灯もない。

ぽつりぽつりとある街灯の光だけが照らしている住宅街の道を歩いて、角を曲がった。

いつも通る、住宅街の間を縫うようして走る細い小路のひとつ。

その小道に入ってすぐに、あたりが白く煙りだした。

霧だ。

じっとりした水気が、湿り気と、僅かな重さを肌に感じさせる。

変に濃い霧だった。

その中、前方からカツンカツンと硬い靴音がやってくる。

霧の中に浮かび上がったシルエットは、黒い学生服を着ていた。今どき珍しく、学生帽まで被っている。顔は……霧のせいかよく見えない。

ただまっすぐに前を向いたまま、彼は自分の脇を通り過ぎていった。

するとすぐに、また前方から足音がする。

今度も学生服姿だった。やっぱり顔はよく分からない。

何事もなく、通り過ぎる。言葉はおろか、視線を交わすこともなく。

そして……また前方から靴音。

自分も歩いている。こんなにこの小道は長かったろうか。霧のせいで、前方がよく見えない。それに学生服の学生がなんで前から連続でやってくるのだろう。このあたりの学校に学生服が制服の学校なんてあったろうか。覚えがない。

歩く、すれ違う、歩く、すれ違う、歩く。

何度か繰り返した。いつの間にか駆け出していた。

やっと小道を抜ける。少し広めの道に出た所で立ち止まり、思わず電柱にもたれかかった。息が荒い。足が震えている。

振り返ってみると、今通ってきた小道には、霧なんて一欠片も出てはいなかった。