救急車の音

飯倉さん(仮名)は、救急指定のある病院の側に住んでいたことがある。

家にいると、朝と言わず夜と言わず救急車のサイレンが聞こえてきて、こんなに救急車の出動って多いものかと思ったものだが……

そんなふうに毎日毎日、何度も何度も救急車の音を聞いているうちに、段々と気づいたことがあった。

時々、救急車のサイレンが、いつもと違って聞こえることがあったのだ。

普通の音よりも低いというか篭っているような、救急車の外側を真綿か何かでくるんだような、そんな風な印象を受けるような音だ。

その音が聞こえてくると、なんとなく、飯倉さんは嫌な気持ちになったという。

もしかしたら、最初からそういった音の具合になっている救急車だったのかもしれない。

しかし、一日に連続でその音が聞こえることもあったし、数週間も普通のサイレンしか聞こえない事もあった。それでも、月に何度かは、その篭ったような救急車の音を聞いていたそうだ。

飯倉さんは、その場所に2年間住み続けた。

最後の方はさすがに救急車のサイレン自体は慣れていたそうだが、やや低い音の方は、やっぱり聞くと不安な気持ちが湧いてきて嫌だった。それだけは、2年経っても変わらなかった。

今の住まいでも、時々救急車の音を聞くことはもちろんある。

けれど、低い篭ったようなサイレンの音はしないと飯倉さんは言う。