壊れたはずの人形

佐島さん(仮名)の実家のリビングの片隅に、ひとつの人形が置かれている。

ウイスキーの瓶を上下逆さまに繋げた体に、毛糸を編んで作られたおさげの髪の毛。布の端切れで作られたカラフルな衣装を着た……手作りの人形である。

佐島さんは子供の頃、この人形を落として壊した事があった。

なんとなく目に付き、手に取ってみようとしたら思いの外重くて床に落としてしまったのだ。

人形は、床に当たって顔の部分が完全に割れてしまった。

お母さんに怒られる!

そう思った佐島さんは、紙袋に人形の破片を全て詰め込んで、近所の川まで行き、橋の上から川の中に投げ込んだという。衝動的に証拠隠滅を図ったわけだ。

だが、家に戻ると、何事もなかったかのようにリビングの同じ場所に人形があった。

佐島さんは当然驚き、恐怖を感じた。が、それを誰にも言えない。

それからは、リビングに居ると人形にじっと見られているような気がして、しばらくは落ち着かなかったそうだ。

何をしても、人形に全て見通されているような感じまでして、めっきり大人しく、イタズラも減ったという。

それからの佐島さんは、親の言うこともよく聞く「良い子」だった。

ずっと後になってから、あれはもしかしたら全部親の策略だったのではないかと思ったそうだが、真相は分からない。

その人形は、今でも佐島さんの実家のリビングの片隅にある。

ちなみに、作ったのは佐島さんのお母さんである。