学校の椅子

中学生の時のことだ。

放課後、家に帰った後で、机の中に宿題のプリントを忘れたことに気がついた。

慌てて自転車を漕いで学校に行くと、到着した時はもう夕方だった。

薄暗くはなっていたが、まだグラウンドでは部活の片付けをしている生徒がちらほら見られ、昇降口も開いている。

良かったと思いつつ、迷わず校舎に入った。

階段を登り、自分の教室がある3階へ。当然外よりも暗かったが、まだ見える。移動できない程ではない。職員や先生たちが残っていそうだったので、明かりは点けずにそのまま進んだ。見つかって余計な小言を言われるのは嫌だ。

3階に着く。

窓からは深い群青色に変わりつつある空と、いくつかの星が見えた。

校舎に入る前はまだ夕方だったのに、妙に時間が進むのが早く感じる。どこか妙な空気を感じたが……とりあえずプリントだ、と廊下を進み始めたその時、

──ガタン!

今まさに通り過ぎようとしていた教室の中から、物音がした。

ビクっとして足が止まる。

反射的に、音の方へと顔が向いていた。

教室の扉が、開いている。最初から開いていた……はずだ。

その向こうで、椅子がひとつ、倒れていた。

誰かいるんだろうか……こんな時間の、暗い教室の中に。

ゆっくりと歩を進め、その教室の中を覗き込む。

……誰もいない。

しーんと静まり返った無人の暗い教室があるだけだ。

風か、あるいは何かの弾みで倒れたか……

いや、何かの弾みってなんだよ。

そんなセルフツッコミは飲み込んだ。考えないほうがいい。それが今は正解だ。

それよりもプリント! と思った時、今度は背後でバン、と音がした。

振り返る。暗い廊下と、夜空が見える窓ガラス。その他に気になるものはない。音から判断すると、ガラスに何かぶつかったような感じだ。外なら鳥か虫。内側は……ありえない。

何事もないことを確認して、先に進もうとすると、視界の端に教室の中が見えた。

全ての机の椅子が大きく引かれ、それがひとつ残らずこちらに向き直っている。

あ……無理だ。と思った。

背を向けて、全力で校舎から出た。振り返らずに家に帰った。

翌日、プリントをやってこなかったせいで追加の宿題が出されたが、そんな事はどうでもいい。

もう二度と、夕方以降の学校には立ち入らない。

そう心に誓った日になった。