街灯の下

夜、遅くなった帰り道での事だ。

国道沿いの歩道を、一人で歩いていた。

月は出ておらず、明かりといえば、一定の広い間隔を開けて立つ街灯と、時折通る車のヘッドランプだけ。

国道と言っても田舎道なので、道を外れるとそこは田んぼが広がっている。この時間でもやっているコンビニやガソリンスタンドは数キロ先だ。もちろん、歩いているのは自分ひとりだけである。周囲には人影などない。

とはいえ、自分にとっては家の近所の、昔から通り慣れた道である。特に怖いとか、不気味とか感じたことはなかった。

……この時までは。

歩いていて、ふと上を見上げた。

道の先、次の街灯の明かりが、妙に暗いのだ。

電球でも切れかかっているのだろうかと思ったが、そうでもないようだ。

街灯の明かりそのものは、しっかりと点灯している。明るさそのものも、他の街灯と比べても、ほぼ同じに見えた。特にその街灯だけが暗いというわけではない。

だが、その街灯の明かりの下だけ、光が届いていない、というか、その街灯の直下の空間だけ、一定の範囲が変に薄暗くなっているようだった。なんというか、そこだけ黒い霧でも湧いているみたいな感じ、とでも言うべきか。

霧、とは言ったが、実際にそんなものがあるわけではない。何もないのだ。何かあるようには見えないのに、ただそこだけ光が阻害されている風に暗いのである。

どうするか、と思ったが、そのまま進むことにした。

この道を通らないと遠回りになる。時間にすれば20分は余計にかかってしまうだろう。それに、ただ暗く見えるだけというなら、特に危険でもないだろうと判断したのだ。そう、ただ暗く見えるだけなのだ。これで怪しい人影が見えたり、化け物じみた何かがいたりしたらまだわかりやすかったろう。奇妙には見えるが、危険には見えない。それが決め手だったように思える。

……結果から言うと、その場はすぐに通り抜けることが出来た。

街灯の周辺に足を踏み入れた瞬間から妙に空気にひんやりしたものを感じたり、耳の奥がいきなり水中や高山に踏み入った際のようにキーンとなったりしたが……気がついたらその場を抜けて通り過ぎていた。

入った、と思ったら抜けていた。

その中にいた瞬間の記憶も、すぽんと抜けている。

半ば呆然と、背後を振り返った。

相変わらず、街灯の明かりがそこだけ暗い。光が下まで届いていない、間に光を邪魔する不可視の何かがあるように。

足早にその場を立ち去り、まっすぐ家に帰った。

もう、振り返らなかった。

……次の日の夜も同じ場所を通ったが、その時には、街灯の明かりは普通に歩道の路上を明るく照らし出していた。

おかしな具合に暗い街灯を見たのは、今の所その時の一度だけだ。