アンテナ能力

山北さん(仮名)は、携帯の電波が弱い場所がなんとなく分かるという。

そんな所に行くと、なんとなくピンとくるのだそうだ。

感覚的なものなので、本人もうまく説明できないのだが、確かに山北さんが「ここ電波弱いよ」と指摘する場所に立つと、携帯のアンテナが1本だったり圏外だったりする。

よっぽどの田舎とか、山の中とかならわかるが、街中のちょっとした場所、ビルの谷間の路地だったり、大きな建物の中だったり、そんな場所でもすぐにわかる。

まあ、そういった場所の大体は地形的な問題で電波を拾いにくくなっていると予想はつく。

が、時には何の変哲もない場所で電波が弱かったりもする。

街角のとある電柱の周りだけ、とか、コインパーキングの隅の一角、とか、公園のすべり台のちょうど滑り降りた地点だけ、とか、そこから一歩でも離れるとアンテナが3本普通に立つのに、その範囲、直径にして1メートルもないような場所に入ると、何故か電波が急に弱くなる、そんな場所があるのだそうだ。何かの原因、要因はあるのかもしれないが、ちょっとそれの想像がつかない。

そしてさらにおかしな「場所」もあるという。

場所というか、正確には「人」なのだが、何故かその人の周囲では妙に携帯の電波が入りづらい、という人がいる。

山北さんは、そういう人も見たことがある。

街中でたまにすれ違うときに、山北さんにはそういった人がすぐにわかる。

「場所」とは違い、そういう人の近くにいると、なんだか妙に不安になるのだ。

そして携帯を見ると、近づくにつれて、みるみる電波が弱くなってくる。

あくまで山北さんの主観だが、そういった人には特徴があるという。

視線が定まっていなかったり、周りを非常に気にしていたり、ぶつぶつ何かを呟いていたり……要するに挙動が不審なのである。

もちろん、山北さんの方からそんな人に近付こうとは思わない。なるべく見ないようにして、通り過ぎるだけだ。

そういう人と出くわす時はいつも一人なので、もしかしたら電波が弱くなるのは自分の携帯だけかもしれないと山北さんは言う。

「場所」と「人」、その感じ方の違いにどういった意味があるのか、山北さん自身も知らない。

ただ、どちらも場合も、あまり自分の方から近づきたいとは思わないそうである。